
辞書での解説によれば、帰宅時の「ただいま」に相当する語は英米にはない。ということだ。
"Hi. Mom."
とか
"Hello."
で済ませてしまうのだ。たまには
"I'm home."
とも言うらしい。
子供のころ、学校からの帰り道、近所のおばさんたちに、
「おかえり。」
といわれて、なんて答えたらよいか困った経験はないだろうか。
家族から言われたら、
「ただいま。」
に決まっている。
しかし、まだ帰り道の途中となると、「ただいま」ではおかしいような気がする。
まして、おばさんたちに、「ただいま」では、なにか丁寧ではないような気もする。
「きょうは暑いですね。」
なんて生意気なことも言えないだろう。せいぜい、
「こんにちは」
くらいが妥当なところだと思っていた。
ところが、大人になって、画期的なあいさつに遭遇した。
こどものころ住んでいた地域からだいぶ西のほうに来たせいもあるかもしれないが、学校帰りの小中学生に、
「おかえり。」
というと、その答えが返ってきた。
それは、
「ただいまかえりました。」
あるいは、
「かえりました。」
というあいさつである。
「おかえりなさい」にしっくり当てはまり、なおかつ、大人に対する敬意のこもった返答である。
まだ身長が1メートルくらいしかない小学生の男の子や、かっこつけたい年頃の中学生の女の子などがあいさつを返してくれる。感動的なことである。
小学校の国語の教科書に、「ただいま」というあいさつは、昔使われていた、
「たったいま帰りました。」
ということばの、「たったいま」を変化させたものだと書かれていた。
だから、「ただいまかえりました」というのは、なにも新しいことでも、画期的でもないのだろうが、
自分が子供のころは、そのあいさつは思いつかなかった。
たぶん、そのことばを使っている子供たちは、家庭か、学校で教わったのだろう。
わたしは、その子たちから学び、今ごろになってやっと、
「お帰り。」
といわれるのが怖くなくなった。
