
小学校低学年の時、「ネリ消し」というものが流行った。
たてまえは消しゴムなのでいちおう鉛筆で書いたものは消すことができるのだが、消すことが主な目的ではない。
手打ちうどんのようにこねて、びよーんと伸ばすことがその最大の特徴なのである。
ちょうどふうせんガムを噛んでフーセン(バブル)をつくるように、「だからなに?」という感じのものである。
そのネリ消しをはじめて見たとき、それはわたしにとってもとても魅力的だった。
どうしたら手に入れることができるのだろうと思いつつも、持っている友達に聞くこともなかった。
しかし、どのクラスにも、聞く前から説明してくれる子供はいるものだ。わたしは彼の言うことにひそかに耳を傾けた。
「ネリ消しって消しゴムを溶かしてつくるんだぜ。」
わたしは家に帰って、ひそかにマッチを持ち出し、外で自分のプラスチック消しゴムに火をつけた。
できたのは黒いけむりと、溶けて焦げた炭素の塊だけだった。
翌日、学校に行って、いい加減なうんちくをたれたやつに文句を言えるはずもない。彼も本気だったのだから。
それが買う物だと知ったのはしばらく後のことだった。
さらに後のこと、同じ彼がまたみょーなモノを持っていた。ネリ消しなのだが、のばすと、しだれ柳の花火が散るかのごとくふわふわと散ってしまうのである。彼はそれを「チリ消し」と名づけていた。
その作り方についても彼は聞かなくても説明してくれた。
「ティッシュをぬらして、ネリ消しに混ぜるとチリ消しになるんだぜ。」
わたしは買ったネリ消しに、ぬらしたティッシュを刻んで混ぜた。
残念ながら、しだれ柳にはならなかった。ネリ消しも使い物にならなくなってしまった。
翌日、学校に行って、いい加減なうんちくをたれたやつに文句を言えるはずもない。彼は本気だったのだから。
それがほんとうに「チリ消し」と言うのかどうか、それさえもわかっていない。
